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カバークロップ+不耕起栽培で温暖化の緩和と土壌健全化に効果

 皇冠体育,皇冠足球盘農学部附属国際フィールド農学センター小松﨑将一教授らの研究グループは、同大の農場における18年間の試験栽培と土壌中の炭素のモニタリングの結果、カバークロップの利用と不耕起栽培の組み合わせが、温暖化の緩和につながり、かつ土壌の健全性を向上させることを明らかにしました。
 この成果は、2020年11月2日、オランダの土壌環境科学専門誌『Soil & Tillage Research』(2021年1月号)に掲載されました。

>>詳しくはプレスリリースをご覧ください。

背景

 2015年に開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、2020年以降の新たな法的枠組みとなる「パリ協定」が採択されました。ここでは農地等における炭素貯留機能の重要性が言及されており、「日本の約束草案」(地球温暖化対策推進本部決定)として、農地土壌炭素吸収源対策の推進により約790万t-CO2の吸収量を確保することが目標とされています。
 わが国においては、農耕地の炭素貯留量増加については、堆肥の利用がすでに検討されています。また、カバークロップなどの緑肥の利用においても土壌炭素の増加が期待されますが、その定量的効果についての知見は不足しています。さらに、土壌のかく乱を最小限とする不耕起栽培も土壌炭素貯留を増加させる農法として注目されていますが、不耕起栽培の普及が少ないわが国では、これらの農作業と炭素貯留との関連についての知見も著しく不足しています。
 農林水産省は、カバークロップの利用や不耕起栽培について、化学肥料?化学合成農薬を原則5割以上低減する取り組みと合わせて行うことで地球温暖化防止や生物多様性保全に高い効果をもたらす営農活動と位置づけて、2011年度から日本型直接支払により支援しています。
 本研究では、このような国内外の状況の中で、気候変動の緩和に寄与する農法に関して、大学農場の長期試験圃場におけるモニタリングを通じて、その科学的根拠を得ることを目的としました。

研究手法と成果

 皇冠体育,皇冠足球盘農学部国際フィールド農学センターは、カバークロップと耕うん方法による炭素貯留への影響のモニタリングサイトを設置し、農耕地の炭素貯留と作物生産性について長期観測しています。ここでは、耕うん方法(不耕起、プラウ耕、およびロータリ耕)およびカバークロップの種類(ヘアリーベッチ、ライムギおよび裸地)を組み合わせ、夏作に2003年から2008年までオカボを、2009年以降はダイズを栽培しています。この圃場において、土壌中の炭素の変化を測定し、農法の違いによる土壌中の炭素の増加?減少の定量的な評価と、農耕地から発生する温室効果ガスのモニタリングを行いました。
 温室効果ガスのモニタリングの結果、カバークロップの利用でメタンガスの発生が多くなり、不耕起栽培で亜酸化窒素ガスの発生が多くなりましたが、不耕起とライムギのカバークロップ利用によって土壌の炭素貯留量が著しく増加した結果、地球温暖化係数(GWPGlobal Warming Potential)は、?2324 kg CO2 equivalent ha?1 year?1となり、温暖化を緩和することが示されました。また、作物収量あたりのGWPは、?1037 kg CO2 equivalent Mg?1 soybean yieldとなりました。これに対し、プラウ耕を行い、ヘアリーベッチを作付けした圃場では、421 kg CO2 equivalent ha?1 year?1となり、排出が示されました。また、不耕起栽培でもカバークロップを作付けしない場合は、-907 kg CO2 equivalent ha?1 year?1となり、ライムギのカバークロップ利用と不耕起の組み合わせよりGWPの減少量は半減しました。
 このことから、不耕起栽培に加えてライムギなどのイネ科のカバークロップの利用の組み合わせが、GWPをより削減する農法として重要であることがわかりました。
 これらの長期試験圃場において、土壌全炭素、土壌全窒素、C/N比、可給態リン酸、交換性カリウム、交換性カルシウム、交換性マグネシウムおよび交換性ナトリウム、陽イオン交換容量、腐植化度、土壌乾燥密度、土壌硬度、土壌粒度分布、および土壌微生物の基質誘導呼吸量を測定しました。また、農法ごとの作物収量を求めました。これらの土壌パラメータを正規化しその積算値(=土壌評価値)と土壌炭素量との相関分析を行った結果、土壌炭素量が増加するにつれて、土壌の化学性、生物性、物理性および生産性が改善されることが明らかとなり、不耕起とライムギのカバークロップ利用で、最も高い土壌炭素を示し、かつ最も高い土壌評価値を得ました。
 農耕地の土壌に炭素を貯留することが、農地の生産力の維持増進にとって大切であることは以前より知られていましたが、本研究の成果から、不耕起栽培とカバークロップを組み合わせて利用することで、農耕地における地球温暖化係数を削減すると同時に、土壌の示す化学的、物理的、生物的なパラメータと生産性に係る機能が向上することで、環境保全と生産性という相互に利益のある農法となることが認められました。

今後の展望

 カバークロップは決してメインとなる作物ではありません。そのため、農業技術の興味の対象あるいは研究の対象として注目される機会は久しくありませんでした。また、日本のように高温多湿な夏に雑草が繁茂しやすい耕地環境においては、不耕起栽培に関する取り組みはあまりありませんでした。
 しかし、農業生産と環境との調和が重視されてくる中、カバークロップの利用や不耕起栽培は、農業のもつ自然循環機能を向上させる上で極めてユニ-クな手法であると考えられます。カバークロップを利用して土壌炭素を増加させることは、二酸化炭素の吸収源のほかに、投入施肥量削減、長期的な収量の安定、さらに土壌保全や生物相の健全化など多面的な効果があります。特にカバークロップの導入は、土壌炭素を増加させると同時に、土壌残留養分を積極的に回収?ストックする機能をもつことから、堆肥では得られない極めて特徴的な土壌管理手法です。また、不耕起栽培は、農業生産に必要となる耕うんのためのエネルギー消費を削減することも期待されます。
 土壌のもつ公益的な機能や生態系サービスに対する関心が高まる中、ライムギなどのカバークロップと不耕起栽培は、今後日本での保全型農業の一つの姿になる可能性があります。これらの農法が、農業生産現場で生かされていくにはさらなる多様な場面での検討が必要です。

関連写真

試験圃場でのカバークロップ生育状況試験圃場でのカバークロップ生育状況

論文情報

【1】

  • タイトル:
    No-tillage with rye cover crop can reduce net global warming potential and yield-scaled global warming potential in the long-term organic soybean field
  • 著者:
    龚 颖婷(東京農工大学大学院連合農学研究科(皇冠体育,皇冠足球盘配置))、李沛然(東京農工大学大学院連合農学研究科(皇冠体育,皇冠足球盘配置))、坂上伸生(皇冠体育,皇冠足球盘農学部)、小松﨑将一(皇冠体育,皇冠足球盘農学部附属国際フィールド農学センター)
  • 雑誌名:Soil and Tillage Research, Volume 205, January 2021
  • 公開日:2020年11月2日
  • DOI:1016/j.still.2020.104747

【2】

  • タイトル:
    A cover crop and no-tillage system for enhancing soil health by increasing soil organic matter in soybean cultivation
  • 著者:
    Heppy Suci Wulanningtyas(当時:皇冠体育,皇冠足球盘大学院農学研究科、現インドネシア農業研究所)、龚 颖婷(東京農工大学大学院連合農学研究科(皇冠体育,皇冠足球盘配置))、李沛然(東京農工大学大学院連合農学研究科(皇冠体育,皇冠足球盘配置))、坂上伸生(皇冠体育,皇冠足球盘農学部)、西脇淳子(皇冠体育,皇冠足球盘農学部)、小松﨑将一(皇冠体育,皇冠足球盘農学部附属国際フィールド農学センター)
  • 雑誌名:Soil and Tillage Research, Volume 205, January 2021
  • 公開日:2020年11月2日
  • DOI:10.1016/j.still.2020.104749

※本研究の一部は、科学研究費補助金(18H02310)の研究助成を受けて実施しました。